おやつはプリン・・・いつかあなたをわすれても/桜木紫乃

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2021年に発行された北海道出身の桜木志乃さんの作品。2020年に第15回中央公論文芸賞を受賞した『家族じまい』で書けなかった孫の視点で書かれた作品だそうです。

今回は小説ではなく『絵本』。とはいっても、子供ではなく大人の絵本。少し悲しいけれど、いつかはやってくる現実。少し重たい内容だけれど、桜木さんの文章にオザワミカさんの絵がよく合っています。

ちょうど、今の私の立場が当てはまる。ドンピシャな作品です。

あらすじ

主人公のおんなのこと、ママ、おばあちゃんのお話。

おばあちゃんが、人生の荷物を一つ一つ降ろしていく中で記憶を忘れていく。少しずつ。少しずつ。

ママは、今までの人生の荷造りを始める。おばあちゃんになるまでに少しずつ。少しずつ。

おんなのこは、おんなのひとになるまで大切に育てられ、いずれママになる。

何代にもわたって繰り返される時の流れ。絵本なのですぐに読めてしまうけれど、何度も読み返して、色々と考えたい作品です。

私はまだ体験していないけれど、親が自分のことを忘れてしまうってどんな感じなんだろう。私もいつか子供達のことを忘れる日が来るのだろうか。少しずつ老いを感じる歳になって来ているからか、現実味が増しています。

忘れられても悲しくならない。そのことに驚いているママ。死は怖いけれど、色々なことを忘れてしまった方が怖くないよ。孤独は寂しいけれど、忘れてしまった方が寂しくないよ。絵本の紹介で書かれていた桜木さんのメッセージを見て涙が出ました。

昔の記憶

今回は、絵本に登場しているおやつのプリンを作りました。丸棒から型を彫って、レジンで固めて。

おやつとはいっても、ママにとっては楽しく食べるプリンではなく、忘れられてしまったことを突き付けられたプリン。それでもほんとに悲しくなかったのかな。私も悲しみを感じることはないのだろうか。

おばあちゃんは、娘のことを忘れてしまっても昔のことはよく覚えているんです。娘におやつで出したプリンのことも。その時に感じたママの表情をオザワミカさんは的確に描かれています。

認知症をポジティブに考える

集英社の【よみタイ】というサイトに、桜木さんとオザワさんの対談が載っています。https://yomitai.jp/special/0330-sakuragiozawa/4/

その中の【「忘れていいよ」というメッセージ】の項の桜木さんの言葉。

娘でなくなった私は、あとはもう母でいればいいんだって。

そのうちおばあちゃんの仕事だけすればよくなるんだろうな。そして、私がいろんなことを忘れるようになって、それで楽になる人が増えればいいなと思っています。うちの娘にも、「自分の都合の悪いことを、お母さんが忘れてくれて良かった」って、そう思ってもらえたらいいなって。

https://yomitai.jp/special/0330-sakuragiozawa/4/

親が娘を忘れる ⇒ 娘じゃなくなった私 ⇒ もう娘じゃなくてもいい。

同性の身内には色々なわだかまりがあるもの。どうして私のことを忘れたの?ではなく、自分(私)の都合の悪いことを忘れてくれてよかった、そんな風に考えられたら、少しは気持ちが楽になるのかも。

認知症のケアはそんなに簡単なことじゃないけれど、この絵本によって少し気持ちにゆとりが出来るのではないかと思いました。

桜木さんの小説【家族じまい】も読みたいと思っています。

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